
岩手医科大学医学部麻酔学講座 教授 鈴木健二
麻酔科学とは人間が生存し続けるために必要な呼吸・循環・代謝等を整えつつ生体への侵襲行為である手術を施行可能にする生体管理学です。麻酔科医は患者が安心して手術を受けられるように術前・術中・術後の状態を安全かつ快適に過ごせるようにするための診療を行います。同時に関連分野である救急医療や集中治療および緩和医療やペインクリニックの分野においても麻酔科学・周術期管理学で得られた知識と技能を生かし、国民のニーズに応じた医療を提供する役割を担っています。
岩手医科大学附属病院中央手術部では年間約9,000件の手術が行われており、そのうち 約6,000件の麻酔管理を麻酔科医が担当しています。集中治療が必要となる重症患者や大侵襲手術後の患者においては、チーム医療の中で主に人工呼吸管理および鎮痛・鎮静を行っています。また、ペインクリニック部門では痛みを主訴とする疾患や神経ブロックが適応となる疾患を対象として診療を行っています。
当講座は1958年に開設されました。麻酔科として本邦では7番目に開設された歴史ある講座です。
古くはエーテル深麻酔を併用した表面冷却式低体温麻酔の研究や臨床応用に力を入れていた時代もありました。近年は麻酔全般に加え集中治療やペインクリニックにも力を入れております。以下に当講座で現在行っている主な研究テーマについて提示します。
- ・術後鎮痛に関する研究 -HFVI(High Frequency Variability Index:心拍変動から副交感神経活動を数値化した指標)を用いてエコーガイド下末梢神経ブロックの有効性を検討する-
- ・肝移植患者の周術期管理に関する研究 -肝移植後の予後指標となる術前・術中因子を明らかにする-
- ・重症患者の人工呼吸管理法に関する研究 -早期離脱のための高流量酸素療法の有効性を明らかにする-
- ・各種鎮痛法に関する研究 -神経ブロック、薬物療法、理学療法、カウンセリングを併用することの効果について検証する-
- ・慢性疼痛に対する東洋医学的アプローチ -漢方薬の適応とその効果について明らかにする-
当講座では、若手医師には麻酔・救急・集中治療・ペインクリニックの各部門での十分な臨床トレーニングを積んでいただき、また「研究テーマ」で挙げたような臨床上の問題点について医局員ならび関連病院の医師と共に研究を進めていきたいと考えております。